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Page:Kokubun taikan 01.pdf/533

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思ひしを、聞き明らめて後には猶もあらぬ心地添ひて、この宮仕を大方にしも覺し放たじかし、さばかり見處ある御あはひどもにてをかしきさまなる事の煩はしきはた必ず出で來なむかしと思ふに、啻ならず胸ふたがる心地すれど、つれなくすくよかにて「人に聞かすまじと侍ることを聞えさせむにいかゞ侍るべき」と氣色立てば、近く侍ふ人も少し退きつゝ御几帳のうしろなどにそばみあへり。そらせうそこをつきづきしう取り續けてこまやかに聞え給ふ。上の御氣色の啻ならぬすぢをさる御心し給へなどやうのすぢなり。いらへ給はむ事もなくうち歎き給へる程忍びやかに美くしういと懷かしきに、猶え忍ぶまじく「御服もこの月には脫がせ給ふべきを日序でなむ宜しからざりける。十三日に河原へ出でさせ給ふべき由の給はせつ。なにがしも御供に侍ふべくなむ思ひ給ふる」と聞え給へば「たぐひ給はむもことごとしきやうにや侍らむ。忍びやかにてこそよく侍らめ」との給ふ。この御ぶくなどの委しきさまを人に普ねく知らせじとおもむけ給へる氣色いとらうあり。中將「洩らさじと包ませ給ふらむこそ心憂けれ。忍び難く思ひ給へらるゝ形見なれば、脫ぎ捨て侍らむ事もいと物憂く侍るものを、さてもあやしうもて離れぬ事の又心得難きにこそ侍れ。この御あらはしごろもの色なくばえこそ思ひ給へ分くまじかりけれ」との給へば「何事も思ひ分かぬ心には况してともかくも思う給へたどられ侍らねど、斯かる色こそ怪しく物哀なる業に侍りけれ」とて例よりもしめりたる御氣色いとらうたげにをかし。かゝる序でにとや思ひ寄りけむ、らにの花のいとおもしろきをも給へりけるをみすのつまよりさし入れて、「これも御覽