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「おほかたに荻の葉すぐる風の音もうき身ひとつにしむ心ちして」とひとりごちけり。西の對には恐しと思ひ明し給ひける名殘に寢すぐして、今ぞ鏡など見給ひける。「ことごとしくさきなおひそ」との給へば、殊に音もせで入り給ふ。屛風なども皆疊みよせて物しどけなくしなしたるに日の華やかにさし出でたる程、けざけざと物淸げなるさまして居給へり。近く居給ひて例の風につけても同じすぢにむづかしう聞え戯れ給へば、堪へずうたてと思ひて「かう心憂ければこそ今宵の風にもあくがれなまほしく侍りつれ」とむづかり給へば、いとよくうち笑ひ給ひて「風につきてあくがれ給はむやかろがろしからむ。さりともとまる方ありなむかし。やうやうかゝる御心むけこそ添ひにたれ。ことわりや」との給へば、げにうち思ふまゝに聞えてけるかなとおぼして自らもうちゑみ給へる、いとをかしき色あひつらつきなり。ほゝづきとかいふめるやうにふくらかにて髮のかゝれるひまひま美しう覺ゆ。まみのいとあまりわらゝかなるぞいとしも品高く見えざりける。その外はつゆ難つくべくもあらず。中將、いと細やかに聞え給ふをいかでこの御かたち見てしがなと思ひ渡る心地にて、隅のまの御簾の几帳は添ひながらしどけなきをやをらひきあげて見るに紛るゝものどもゝ取りやりたればいとよく見ゆ。かく戯れ給ふ氣色のしるきを、あやしのわざや、親と聞えながらかくふところはなれず物近かるべき程かはと目とまりぬ。見やつけ給はむと恐しけれど怪しきに心も驚きてなほ見れば、柱がくれに少しそばみ給へりつるを引きよせ給へるにみぐしのなみよりてはらはらとこぼれかゝりたる程女いとむつかしく苦しと思ひ給へ