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こと事に思ひ移れど猶ふと覺えつゝきしかた行くすゑありがたうも物し給ひけるかな。かゝる御なからひに、いかでひんがしの御方さるものゝかずにて立ち並び給ひつらむ、たとしへなかりけりや、あないとほしと覺ゆ。おとゞの御心ばへをありがたしと思ひ知り給ふ。人がらのいとまめやかなればにげなさを思ひよらねど、さやうならむ人をこそ同じうは見て明し暮さめ、限あらむ命の程も今少しは必ず延びなむかしと思ひ續けらる。曉がたに風少ししめりて村雨のやうに降り出づ。六條院には離れたる屋ども倒れたりなど人々申す。風の吹きまふほど廣くそこら高き心地する院に人々はたおはします。おとゞのあたりにこそ繁けれ、ひんがしの町などは人ずくなにおぼされつらむと驚き給ひてまたほのぼのとするに參り給ふ。道の程橫ざま雨いと冷やかに吹き入る。空の氣色もすごきに怪しくあくがれたる心地して、何事ぞや又我心に思ひ加はれるよと思ひ出づれど、いとにげなき事なりけり。あなものぐるほしと、とざまかうざまに思ひつゝひんがしの御方にまづまうで給へれば、おぢこうじておはしけるにとかく聞え慰めて、人召して所々繕はすべきよしなどいひおきて南のおとゞに參り給へれば、まだみ格子も參らず。おはしますにあたれる高欄におしかゝりて見渡せば、山の木どもゝ吹き靡かして枝ども多く折れ伏したり。草むらは更にもいはず、ひはだ、瓦、所々の立蔀、すいがいなどやうのもの亂りがはし。日の僅にさし出でたるに、うれへがほなる庭の露きらきらとして空はいとすごうきり渡れるに、そこはかとなく淚の落つるをおしのごひ隱して打ちしはぶき給へれば「中將のこわづくるにぞあなる。夜はまだ深から