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Page:Kokubun taikan 01.pdf/505

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事行ひのゝしる。「中將は何處よりものしつるぞ」、「三條の宮に侍りつるを、風いたく吹きぬべしと人々の申しつれば、覺束なさになむ參りて侍りつる。かしこにはまして心ぼそく風の音をも今はかへりて若き子のやうにおぢ給ふめれば、心苦しきにまかで侍りなむ」と申し給へば、「げに、はやまうで給ひね。老いもていきて又わかうなること世にあるまじきことなれど、げにさのみこそあれ」など哀がり聞え給ひて、「かう騷しげにはべめるを、この朝臣侍へばと思ひ給へ讓りて」など御せうそこ聞え給ふ。道すがらいりもみする風なれど、麗しく物し給ふ君にて、三條の宮と六條院とに參りて御覽ぜられ給はぬ日なし。うちの御物忌などに得去らず籠り給ふべき日より外は、いそがしき公事節會などのいとまいるべく事繁きにあはせても、まづこの院に參り宮よりぞ出で給ひければ、まして今日かゝる空の氣色により風のさきにあくがれありき給ふも哀に見ゆ。宮いと嬉しくたのもしと待ち受け給ひて、「こゝらの齡にまだかく騷しき野分にこそあはざりつれ」と唯わなゝき給ふ。大きなる木の枝などの折るゝ音もいとうたてあり。おとゞの瓦さへ殘るまじう吹き散らすに、「かくてものし給へること」とかつはの給ふ。そこら所せかりし御勢ひのしづまりて、この君を賴もし人におぼしたる、常なき世なり。今も大方のおぼえの薄らぎ給ふことはなけれど內のおほひとのゝ御けはひはなかなか少し疎くぞありける。中將よもすがら荒き風の音にもすゞろに物あはれなり。心にかけて戀しと思ふ人の御事はさしおかれて、ありつる御面影の忘られぬを、こはいかに覺ゆる心ぞあるまじき思ひもこそ添へ、いと恐ろしきこととみづから思ひまぎらはし、