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く聞き知らせけり。にくき御心こそそひたれどさりとて御心のまゝにおしたちてなどももてなし給はず、いとゞ深き御心のみまさり給へば、やうやう懷しう打ち解け聞え給ふ。秋にもなりぬ。初風凉しく吹き出でゝせこが衣もうらさびしき心地し給ふに、忍びかねつゝいとしばしば渡り給ひておはしましくらし、御琴などもならはし聞え給ふ。五日六日の夕月夜はとく入りて、凉しく曇れる氣色、荻の音もやうやうあはれなる程になりにけり。御琴を枕にて諸共に添ひ臥し給へり。かゝるたぐひあらむやとうち歎きがちにて夜ふかし給ふも、人のとがめ奉らむことをおぼせば、渡り給ひなむとておまへの篝火少し消えがたなるを御供なる右近の大夫を召してともしつけさせ給ふ。いと凉しげなる遣水のほとりに氣色ことにひろごりたるまゆみの木の下に、うちまつおどろおどろしからぬ程におきてさししぞきてともしたれば、御前の方はいと凉しくをかしき程なる光に、女の御さま見るもかひありてみぐしの手あたりなどいとひやゝかにあてはかなる心地して、うちとけぬさまに物をつゝましとおぼしたる氣色いとらうたげなり。かへりうくおぼしやすらふ。「絕えず人さぶらひてともしつけよ。夏の月なきほどは庭の光なきいとものむかしくおぼつかなしや」との給ふ。
「かゞりびにたちそふ戀のけぶりこそ世には絕えせぬほのほなりけれ。いつまでとかやふすぶるならでも苦しきしたもえなりけり」と聞え給ふ。女君、怪しのありさまやと覺すに、
「行くへなき空にけちてよかゞり火のたよりにたぐふ烟とならば。人のあやしと思ひ侍らむこと」とわび給へば、「くはや」とて出で給ふに、ひんがしの對の方におもしろき笛の音箏