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Page:Kokubun taikan 01.pdf/481

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世のおぼえも猶心ことなめるに、かぞへのかみはほとほとしかりけむなどぞかのげんがゆゝしさをおぼしなぞらへ給ふ。殿はこなたかなたにかゝる物どもの散りつゝ御目に離れぬは、あなむつかし。女こそ物うるさがりせず人に欺かれむとうまれたるものなれ。こゝらの中に誠はいと少からむを、かつしるしるかゝるすゞろごとに心を移しはかられ給ひて、あつかはしきさみだれ髮の亂るも知らでかき給ふよ」とて笑ひ給ふものから、又「かゝる世のふることならではげに何をかまぎるゝことなきつれづれを慰めまし。さてもこのいつはりどもの中にげにさもあらむとあはれを見せ。つきづきしうつゞけたるはた、はかなしごとゝ知りながら徒らに心動き、らうたげなる姬君の物思へる見るにかた心つくかし。又いとあるまじきことかなと見るみるおどろおどろしくとりなしけるが、目驚きて靜に又聞くたびぞにくけれど、ふとをかしきふしあらはなるなどもあるべし。この頃幼き人の女房などに時々讀まするをたち聞けば、物よくいふものゝ世にあべきかな。そらごとをよくしなれたる口つきよりぞ言ひ出すらむとおぼゆれどさしもあらじや」とのたまへば、「げに僞りなれたる人やさまざまにさもくみ侍らむ。唯いと誠の事とこそ思ひ給へられけれ」とて硯をおしやり給へば、「こちなくも聞えおとしてけるかな。神代より世にあることを記し置きけるななり。日本紀などは唯かたそばぞかし。これらにこそみちみちしくくはしきことはあらめ」とて笑ひ給ふ。「その人の上とてありのまゝに言ひ出づることこそなけれ、善きも惡しきも世にふる人の有樣の見るにも飽かず聞くにもあまることを、後の世にも言ひ傅へさせまほしきふしぶ