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よらず。思の外にもありける世かなと歎かしきにいと氣色もあしければ、人々「御心ち惱しげに見え給ふ」とてもてさわぎ聞ゆ。「殿の御氣色のこまやかにかたじけなくもおはしますかな。まことの御親と聞ゆとも更にかばかりおぼしよらぬことなくはもてなし聞え給はじ」など兵部なども忍びて聞ゆるにつけて、いとゞ思はずに心づきなき御心の有樣をうとましう思ひはて給ふにも身ぞ心うかりける。またのあした御文とくあり。嬉しがりて臥し給へれど人々御硯などまゐりて、「御返り疾く」と聞ゆればしぶしぶに見給ふ。しろき紙のうはべはおいらかにすくすくしきにいとめでたう書い給へり。「たぐひなかりし御氣色こそつらきしも忘れがたう、いかに人見奉りけむ。
うちとけてねも見ぬものをわか草のことあり顏にむすぼゝるらむ。をさなくこそ物し給ひけれ」とさすがに親がりたる御ことばもいとにくしと見給ひて、御かへりごと聞えざらむも人めあやしければ、ふくよかなるみちのくに紙に、たゞ「うけ給はりぬ。みだり心地のあしうはべれば、聞えさせぬ」とのみあるに、かやうのけしきはさすがにすくよかなりとほゝゑみてうらみ所ある心地し給ふもうたてある御心かな。色に出だし給ひて後は、おほたの松のと思はせたることなく、むつかしく聞え給ふこと多かれば、いとゞ所せき心ちしておき所なき物思ひつきていとなやましうさへし給ふ。かくて事の心しる人はすくなうて、疎きも親しきもむげのおやざまに思ひ聞えたるを、かうやうの氣色の漏りいでばいみじう人わらはれにうき名にもあるべきかな、父おとゞなどの尋ねしり給ふにても、まめまめしき御心ばへ