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Page:Kokubun taikan 01.pdf/456

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は男踏歌あり、うちより朱雀院に參りて次にこの院にまゐる。道の程遠くて夜の明方になりにけり。月の曇りなくすみまさりて薄雪少し降れる庭のえならぬに、殿上人などもものゝ上手多かるころほひにて、笛の音もいとおもしろく吹き立てゝ、このおまへは殊に心づかひしたり。御方々物見に渡り給ふべくかねて御せうそこどもありければ、左右の對、渡殿などに御つぼねしつゝおはす。西の對の姬君は寢殿の南の御方に渡り給ひて、こなたの姬君に御たいめんありけり。上もひとゝころにおはしませば御几帳ばかり隔てゝ聞え合ふ。朱雀院、きさいの宮の御方などめぐりける程に夜もやうやう明け行けば、みづうまやにてことそがせ給ふべきを、例あることより外にさまことにこと加へていみじくもてはやさせ給ふ。影すさまじき曉月夜に雪はやうやう降り積む。松風木高く吹きおろし物すさまじくもありぬべき程に、靑色のなえばめるにしらがさねの色あひ何のかざりかは見ゆる。かざしの綿は匂もなきものなれど、所からにやおもしろく心ゆき命のぶるほどなり。殿の中將の君內の大殿のきんだちそこらにすぐれてめやすく華やかなり。ほのぼのと明け行くに雪やゝ散りてそゞろ寒きに、竹川謠ひてかよれるすがたなつかしき聲々の、繪にも書きとめ難からむこそ口惜しけれ。御方々いづれもいづれも劣らぬ袖口どもこぼれ出でたるこちたさ、物の色あひなども曙の空に春の錦立ち出でにける霞のうちかと見渡さる。怪しく心ゆく見物にぞありける。さるはかうごしのよばなれたるさま、ことぶきのみだりがはしき、をこめきたることもことごとしくとりなしたる、なかなか何ばかりのおもしろかるべき拍子も聞えぬものを、例の