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に見えて、經佛のかざりはかなくしなしたるあかの具などもをかしげになまめかしく、猶心ばせありと見ゆる人のけはひなり。あをにびの几帳、心ばへをかしきにいたく居隱れて袖口ばかりぞ色異なるしも懷しければ、淚ぐみ給ひて松が浦島を遙に思ひてぞ止みぬべかりける。「昔より心憂かりける御契かな。さすがにかばかりのむつびはたゆまじかりけるよ」などのたまふ。尼君も物あはれなるけはひにて、「かゝる方に賴み聞えさするしもなむ淺くはあらず思ひ給へ知られ待りける」と聞ゆ。「常にをりをり重ねて心惑はし給へし世の報などを佛にかしこまり聞ゆるこそ苦しけれ、おぼし知るや、かくいとすなほにしもあらぬものをと、思ひあはせ給ふ事もあらじやはとなむ思ふ」とのたまふ。かのあさましかりし世のふることを聞き置き給へるなめりとはづかしく、「かゝる有樣を御覽じはてらるゝより外の報はいづこにか侍らむ」とて誠にうち位きぬ。いにしへよりも物深く恥しげさまさりて、かくもて離れたる如くおぼすしも見放ち難くおぼさるれどはかなき事をのたまひかくべくもあらず。大方の昔今の物語をし給ひて、かばかりのいふかひだにあれかしとあなたを見遣り給ふ。かやうにても御蔭に隱れたる人々多かり。皆さし覗き渡し給ひて「覺束なき日數積る折々あれど心の中は怠らずなむ。唯限ある道の別のみこそ後めたけれ、命ぞ知らぬ」などなつかしくのたまふ。いづれをも程々につけてあはれとおぼしたり。われはとおぼしあがりぬべき御身の程なれど。さしもことごとしくもてなし給はず、所につけ人の程につけつゝあまねく懷しくおはしませば、唯かばかりの御心にかゝりてなむ多くの人々年月を經ける。
今年