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どのたまひて御返事はおぼしもかけねば「返しやりて」むとあめるに「これより押し返し給はざらむはひがひがしからむ」とそゝのかし聞え給ふ。なさけ捨てぬ御心にて書き給ふ。いと心やすげなり。
「かへさむといふにつけてもかたしきの夜の衣を思ひこそやれ。ことわりや」とぞあめる。
初音
年立ちかへるあしたの空の氣色名殘なく曇らぬうらゝかげさには、數ならぬ垣根の內だに雪間の草若やかに色づきそめ、いつしかと氣色だつ霞に木のめもうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。ましていとゞ玉を敷けるおまへは庭より始め見所おほく、みがきまし給へる御かたがたの有樣、まねびたてむも言の葉たるまじくなむ。春のおとゞのおまへ取り分きて梅の香も御簾の內のにほひに吹きまがひて生ける佛の御國とおぼゆ。さすがに打ち解けてやすらかに住みなし給へり。侍ふ人々も若やかにすぐれたるを姬君の御方にとえらせ給ひて、少しおとなびたるかぎりなかなかよしよしゝくさう束有樣よりはじめてめやすくもてつけて、此處彼處にむれ居つゝはがためのいはひして、もちひ鏡をさへ取りよせて千年のかげにしるき年の內の祝事どもしてそぼれあへるに、おとゞの君さしのぞき給へればふところでひきなほしつゝ、「いとはしたなきわざかな」とわびあへり。「いとし