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Page:Kokubun taikan 01.pdf/449

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たゝかなるみづからの祝事どもかな。皆各々思ふことの道々あらむかし。少し聞かせよや。われことぶきせむ」とうち笑ひ給へる御有樣を年のはじめのさかえに見奉る。われはと思ひあがれる中將の君ぞ「かねてぞ見ゆるなどこそ鏡の影にも語らひ侍りつれ。私のいのりは何ばかりのことをか」など聞ゆる。あしたのほどは人々參りこみて物騷がしかりけるを、夕つ方御かたがたの參座し給はむとて心ことに引きつくろひけさうじ給ふ御蔭こそげに見るかひあめれ。「今朝この人々の戯ぶれかはしつるいと羨ましう見えつるを、うへにはわれ見せ奉らむ」とて亂れたる事ども少しうちまぜつゝ祝ひ聞えたまふ。

 「うす氷とけぬる池のかゞみには世にたぐひなきかげぞならべる」。げにめでたき御あはひどもなり。

 「くもりなき池の鏡によろづ代をすむべきかげぞしるく見えける」。何事につけても末遠き御契をあらまほしく聞えかはし給ふ。今日は子の日なりけり。げに千年の春をかけて祝はむにことわりなる日なり。姬君の御方に渡り給へれば、わらはしもづかへなどおまへの山の小松ひき遊ぶ。若き人々の心地ども置き所なく見ゆ。北のおとゞより、わざとがましくし集めたるひげこどもひわりごなど奉れ給へり。えならぬ五葉の枝にうつれる鶯も思ふ心あらむかし。

 「年月を松にひかれてふる人にけふうぐひすの初音きかせよ。音せぬさとの」と聞え給へるを、げにあはれとおぼし知る。こといみもえし給はぬ氣色なり。「この御かへりはみづから