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Page:Kokubun taikan 01.pdf/381

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もいかゞとて一ま二まはおろさず、月さし出でゝ薄らかに積れる雪の光にあひてなかなかいと面白き夜のさまなり。ありつる老らくの心げさうもよからぬものゝ世のたとひとか聞きしとおぼし出でられてをかしくなむ。今宵はいとまめやかに聞え給ひて「ひとことにくしなども、人づてならでのたまはせむを思ひたゆるふしにもせむ」とおり立ちてせめ聞え給へど、昔われも人も若やかに罪免されたりし世にだに故宮などの心よせおぼしたりしを、猶あるまじくはづかしと思ひ聞えてやみにしを、世のすゑにさだすぎ、つきなきほどにて一聲もいとまばゆからむとおぼして、更に動きなき御心なれば、あさましうつらしと思ひ聞え給ふ。流石にはしたなくさし放ちてなどはあらぬ人づての御返りなとぞ心やましきや。夜もいたう更け行くに風のけはひ烈しくて誠にいと物心ほそく覺ゆればさまよき程におしのごひ給ひて、

 「つれなさを昔にこりぬ心こそ人のつらさにそへてつらけれ。心づから」との給ひすさぶるを、げに傍いたしと人々例の聞ゆ。

 「あらためて何かは見えむ人のうへにかゝりと聞きし心がはりを。昔に變る事は習はず」と聞え給へり。いふかひなくていとまめやかにゑじ聞えて出で給ふもいと若々しき心地し給へば、「いとかく世のためしになりぬべき有樣漏し給ふなよ。ゆめゆめいさら川などもなれなれしや」とて切にうちさゝめき語らひ給へど何事にかあらむ。人々も「あなかたじけな。あなかちになさけ後れてももてなし聞え給ふらむかるらかにおし立ちてなどは見え給はぬ