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もてはなれ聲ふつゝかにこちごちしく覺え給へるもさるかたなり。「院のうへ崩れ給ひて後萬心ぼそく覺え侍りつるに年の積るまゝにいと淚がちにて過ぐしはべるをこの宮さへかくうちすて給へればいよいよあるかなきかにとまり侍るをかく立ち寄りとはせ給ふになむ物忘れしぬべく侍る」と聞え給ふ。かしこくもふり給へるかなと思へどうち畏まりて「院崩れ給ひて後はさまざまにつけて、同じ世のやうにも侍らず。覺えぬ罪にあたり侍りて知らぬよに惑ひ侍りしを、たまたまおほやけにかずまへられ奉りては又とりみだり暇なくなどして年頃も參りて、古の御物語をだに聞え承はらぬをいぶせく思ひ給へ渡りつゝなむ」など聞え給ふを「いともいともあさましく何方につけても定めなき世を同じさまにて見給へすぐす。命長さのうらめしき事多く侍れどかくて世に立ちかへり給へる御悅になむ、ありし年頃を見奉りさしてましかば、口惜しからましと覺え侍る」とうちわなゝき給ひて「いと淸らにねびまさり給ひにけるかな。わらはに物し給へりしを見奉りそめし時世にかゝる光の出でおはしたることゝ驚かれ侍りしを、時々見奉るだにゆゝしく覺え侍りてなむ。內のうへなむいとよく似奉らせ給へると人々聞ゆるをさりとも劣り給へらむとこそ推し量りはべれ」と長々と聞え給へば、殊にかくさし向ひて人の譽めぬわざかなとをかしくおぼす。「山がつになりていたう思ひくづほれ侍りし年頃の後こよなくおとろへにて侍るものを、內の御かたちは古の世にも並ぶ人なくやとこそあり難く見奉り侍れ。怪しき御おしはかりになむ」と聞え給ふ。「時々見奉らばいとゞしき命やのび侍らむ。今日は老も忘れうき世のなげき皆さめぬる心