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Page:Kokubun taikan 01.pdf/373

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えまし」との給ふに、

 「いさりせしかげ忘られぬかゞり火は身のうきふねや慕ひ來にけむ。思ひこそまがへられ侍れ」と聞ゆれば、

 「淺からぬしたの思ひを知らねばや猶かゞり火のかげはさわげる。たれうきもの」とおしかへしうらみ給ふ。大かたものしづかにおぼさるゝ頃なればたふとき事どもに御心とまりて、例よりは日ごろ經給ふにやすこし思ひまぎれけむとぞ。


槿

齋院は、御ぶくにており居給ひにきかし。おとゞ例のおぼしそめつること絕えぬ御くせにて、御とぶらひなどいとしげう聞え給ふ。宮煩はしかりしことをおぼせば御返りもうちとけて聞え給はず。いと口惜しとおぼしわたる。九月になりて桃園の宮に渡り給ひぬるを聞きて女五の宮のそこにおはすればそなたの御とぶらひにことつけてまうで給ふ。故院の子のみこたちをば心殊にやんごとなく思ひ聞え給へりしかば今も親しくつぎつぎに聞え交し給ふめり。同じ寢殿の西ひんがしにぞ住み給ひける。程もなく荒れにける心地して哀にけはひしめやかなり。宮たいめんし給ひて御物語聞え給ふ。いとふるめきたる御けはびしはぶきがちにおはす。このかみにおはすれど故おほ殿の宮はあらまほしくふりがたき御有樣なるを