コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 01.pdf/350

提供:Wikisource
このページは校正済みです

給へるにさこそしづめつれ、見送り聞ゆ。いはむ方なき盛の御かたちなり。いたうそびやぎ給へりしが少しなりあふ程になり給ひにけり。御姿などかくてこそものものしかりけれと御指貫の裾までなまめかしう愛敬のこぼれ出づるぞあながちなる見なしなるべき。かの解けたりしくらうどもかへりなりにけり。靱負の尉にて今年かうぶり得てけり。昔にあらため心ちよげにてみはかし取りにより來たり。人影を見つけて「きし方の物忘れし侍らねどかしこければえこそ。浦風覺え侍る曉の寢覺にも驚し聞えさすべきよすがだになくて」とけしきばむを「やへたつ山は更に島がくれにも劣らざらけるを松も昔のとたどられつるに忘れぬ人もものし給ひけるにたのもし」などいふ。こよなしや、我も思ひなきにしもあらざりしをなどあさましう覺ゆれど「今殊更に」とうちけざやぎて參りぬ。いとよそほしくさし步み給ふ程、かしかましう追ひ拂ひて御車のしりに頭の中將兵衞督のせ給ふ。「いとかるがるしき隱れが見顯されぬるこそねたう」といたうからがり給ふ。「よべの月に口惜しう御供に後れ侍りにけると思ひ給へられしかば、今朝霧をわけて參り侍る山の錦はまだしう侍りけり。野邊の色こそ盛に侍りけれ。なにがしの朝臣の小鷹にかゝづらひて立ち後れ侍りぬる。いかゞなりぬらむ」などいふ。今日は猶桂殿にとてそなたざまにおはしましぬ。俄なる御あるじし騷ぎて鵜飼ども召したるに、海士のさへづりおぼし出でらる。野にとまりぬる君たち小鳥しるしばかりひきつけさせたる荻のえだなどつとにして參れり。おほみきあまたたびずんながれて、川のわたり危げなれど、醉に紛れておはしましくらしつ。おのおのぜくなど作りわ