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Page:Kokubun taikan 01.pdf/340

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しろめたし。しづかに籠り居て後の世の事をつとめかつは齡をも延べむとおぼして、山里の長閑なるをしめてみ堂作らせ給ふ。佛經のいとなみ添へてせさせ給ふめるに、末の君たち思ふさまにかしづきいだして見むとおぼしめすにぞ、疾く捨て給はむことは難げなる。いかにおぼし置きつるにかといとしりがたし。


松風

ひんがしの院つくり立てゝ、花ちる里と聞えしうつろはし給ふ。西の對渡殿などかけてまどころけいしなどあるべきさまにしおかせ給ふ。東の對は明石の御方とおぼしおきてたり。北の對は殊に廣く造らせ給ひて、かりにても哀とおぼして行く末かけて契り賴め給ひし人々集ひ住むべきさまにへだてへだてしつらはせ給へるしも懷しう見所ありてこまかなり。寢殿はふたげ給はず時々渡り給ふ御すみどころにしてさる方なる御しつらひどもしおかせ給へり。明石には御せうそこ絕えず。今は猶上り給ひぬべきことをばのたまへど、女は猶我が身の程を思ひ知るに、こよなくやんごとなききはの人々だになかなかさてかけはなれぬ御有樣のつれなきを見つゝ物思ひまさりぬべく聞くを、まして何ばかりの覺えなりとてかさし出でまじらはむ、この若君の御おもてぶせに數ならぬ身の程こそあらはれめ、たまさかにはひわたり給ふついでを待つことにて人わらへにはしたなき事いかにあらむと思ひ亂れてもま