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いふ。今はましていと耻しうよろづのことうひうひしき心地すれど、めづらしきにや、え忍ばれざりけむ。
「あふさかの關やいかなるせきなればしげきなげきの中をわくらむ。夢のやうになむ」と聞えたり。あはれもつらさも忘れぬふしとおぼし置かれたる人なれば折々はなほのたまひうごかしけり。かゝる程にこの常陸の守おひのつもりにや、惱しうのみして物心ぼそかりければ、子どもに唯この君の御事をのみ言ひ置きて「よろづのことたゞこの御心にのみ任せて我がありつる世にかはらで仕うまつれ」とのみあけくれいひけり。女君心うきすくせありてこの人にさへ後れていかなるさまにはふれ惑ふべきにかあらむと思ひ歎き給ふを見るに、いのちの限あるものなれば惜みとゞむべきかたなし。いかでかこの人の御ために殘し置くたましひもがな、我が子どもの心も知らぬをと、後めたう悲しきことにいひ思へど心えにとゞめぬものにてうせぬ、暫しこそさのたまひしものをなどなさけつくれど、うはべこそあれ、つらきこと多かり。とあるもかゝるも世のことわりなれば、身一つのうきことにてなげきあかしくらす。唯このかうちの守のみ昔よりすきごゝろありて少しなさけがりける。「あはれにのたまひおきしを數ならずともおぼし疎までのたまはせよ」などつゐそうしよりていとあさましき心の見えければ、うきすくせある身にてかく生きとまりてはてはては珍しき事どもを聞きそふるかなと、人しれず思ひ知りて人にさなむとも知らせで尼になりにけり。ある人々いふかひなしと思ひなげく。守もいとつらう「おのれを厭ひ給ふほどにのこりの御齡