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Page:Kokubun taikan 01.pdf/314

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聞えねど近きたのみ侍りつる程こそあれ、いとあはれに後めたくなむ」などことよがるを、更にうけひき給はねば、「あなにくことごとしや、心一つにおぼしあがるともさるやぶはらに年經給ふ人を大將殿もやんごとなくしも思ひ聞え給はじ」などゑんじうけひけり。さる程にげに世の中に許され給ひて都にかへり給ふと、あめのしたの悅にて立ち騷ぐ。我もいかで人より先に深きこゝろざしを御覽ぜられむとのみ思ひきほふ。をとこ女につけてたかきをもくだれるをも人の心ばへを見給ふに、あはれにおぼし知る事さまざまなり。かやうにあわたゞしき程に更に思ひ出で給ふ氣色見えで月日經ぬ。今はかぎりなりけり、年比あらぬさまなる御さまを悲しういみじき事を思ひながらもえ出づる春にあひ給はなむと念じ渡りつれど、たびしかはらなどまで悅び思ふなる御位あらたまりなどするをよそにのみ聞くべきなりけり、悲しかりし折のうれはしさはたゞ我が身一つのためになれるとおぼえしかひなき世かなと、心碎けてつらく悲しければ、人知れずねをのみ泣き給ふ。大貳の北の方、さればよまさにかくたつきなく人わろき御ありさまをかずまへ給ふ人はありなむや、ほとけひじりも罪輕きをこそ導きよくし給ふなれ、かゝる御有樣にてたけく世をおぼし、宮うへなどのおはせし時のまゝにならひ給へる御心おごりのいとほしきことゝいとゞをこがましげに思ひて、「猶も思し立ちね。世のうき時は見えぬ山路をこそ尋ぬなれ。田舍などはむづかしきものとおぼしやるらめどひたぶるに人わろげにはよももてなし聞えじ」などいと事よくいへば、むげにくしにたる女ばら「さもなびき給はなむ。たけき事もあるまじき御身をいかにおぼし