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きなれば、「いと恐しげに侍るや。みだり心地のいとかく限なる折しも渡らせ給へるはまことに淺からずなむ。思ひ侍ることを少しも聞えさせつればさりともとたのもしくなむ」など聞えさせ給ふ。「かゝる御ゆゐごんのつらにおぼしけるもいとゞあはれになむ。故院のみこ達あまたものし給へど親しくむつびおぼすもをさをさなきを、うへの同じみこ達のうちにかずまへ聞え給ひしかばさこそは賴み聞え侍らめ。少しおとなしき程になりぬる齡ながらあつかふ人もなければさうざうしきを」など聞えて歸り給ひぬ。御とぶらひ今少したちまさりてしばしば聞え給ふ。七八日ありてうせ給ひにけり。あへなうおぼさるゝに世もいとはかなくて物心ぼそう思されてうちへも參り給はず。とかくの御事などおきてさせ給ふ又たのもしき人もことにおはせざりけり。ふるき齋宮のみやづかさなど仕うまつり馴れたるぞ僅に事ども定めける。御みづからも渡り給へり。宮に御せうそこ聞え給ふ。「何事もおぼえ侍らでなむ」と女別當して聞え給へり。「聞えさせのたまひ置きしことども侍りしを、今は隔なきさまにおぼされば嬉しくなむ」と聞え給ひて、人々めし出でゝあるべき事ども仰せ給ふ。いとたのもしげに年比の御心ばへとりかへしつべう見ゆ。いといかめしう殿の人々數もなう仕うまつらせ給へり。あはれにうちながめつゝ御さうじにてみすおろし込めて行はせ給ふ。宮には常にとぶらひ聞え給ふ。やうやう御心しづまり給ひてはみづからも御返りなど聞え給ふ。つゝましうおぼしたれど御めのとなどかたじけなしとそゝのかし聞ゆるなりけり。雲みぞれかき亂れ荒るゝ日にいかに宮の御ありさまかすかに眺め給ふらむと思ひやり聞え給ひ