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Page:Kokubun taikan 01.pdf/196

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の御さう束など例のやうにしかけられたるに女のがならばぬこそなべてさうざうしくはえ無けれ。宮の御消そこにて「今日はいみじく思ひ給へ忍ぶるを斯渡らせ給へるになむなかなか」など聞え給ひて「昔にならひ侍りにける御よそひも月頃はいとゞ淚にきりふたがりて色あひなく御覽ぜられ侍るらむと思ひ給ふれど、今日ばかりは猶やつれさせ給へ」とていみじくしつくし給へるものどもまた重ねて奉れ給へり。必ず今日奉るべきと思しける御したがさねは色もおりざまもよのつねならず、心ことなるをかひなくやはとて着かへ給ふ。來ざらましかば口惜しうおぼされましと心苦し。御かへりには「春やきねるともまづ御覽ぜられになむ。參りはべりつれど思ひ給へ、出でらるゝ事ども多くて、えきこえさせ侍らず。

  あまたとし今日あらためし色ごろもきては淚ぞふるこゝちする。えこそ思ひ給へしづめね」と聞え給へり。御かへり、

 「新しき年ともいはずふるものはふりぬる人のなみだなりけり」。おろかなるべきことにぞあらぬや。


賢木

齋宮の御くだり近うなり行くまゝにみやす所物心細くおもほす。やんごとなく煩はしきものにおぼえ給へりしおほい殿の君も亡せ給ひて後、さりともと世の人も聞えあつかひ宮の