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Page:Kokubun taikan 01.pdf/185

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たましひ必ずとまりなむかしと色めかしき心ちにうちまもられつゝ近うつい居給へれば、しどけなう打ち亂れ給へるさまながら紐ばかりをさし直し給ふ。これは今少しこまやかなる夏の御直衣に紅のつややかなる引き重ねてやつれ給へるしも見てもあかぬ心ちぞする。中將もいとあはれなるまみにながめ給へり。

 「雨となりしぐるゝ空のうき雲をいつれのかたとわきてながめむ。ゆくへなしや」とひとりごとのやうなるを、

 「見し人の雨となりにし雲ゐさへういとゞしぐれにかきくらすころ」との給ふ御氣色も淺からぬ程しるく見ゆれば怪しう、年頃いとしもあらぬ御志を院など居立ちてのたまはせ、おとどの御もてなしも心苦しう、大宮の御かたざまにもてはなるまじきなど、方々にさしあひたればえしもふり捨て給はで物うげなる御氣色ながら、ありへたまふなめりかしといとほしう見ゆる折々ありつるを、誠にやんごとなく重き方は殊に思ひ聞え給ひけるなめりと見しるにはいよいよ口惜しうおぼさる。萬につけて光り失せぬる心地してくしいたかりけり。枯れたる下草のなかに、りんどう瞿麥などの咲き出でたるを折らせ給ひて中將の立ち給ひぬる後に若君の御乳母宰相の君して、

 「草がれのまがきに殘るなでしこを秋の形見とぞ見る。にほひ劣りてや御覽ぜらるらむ」と聞え給へり。實に何心なき御ゑみがほぞいみじううつくしき。宮は吹く風につけてだに、木の葉よりけにもろき御淚はましてとりあへ給はず、