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てやがてうちずみし給へとたびたび聞えさせ給ひしをだにいとあるまじき事と思ひ離れにしを、かく心より外に若々しき物思をして遂に浮名をさへ流しはつべき事とおぼし亂るゝに猶例のさまにも坐せず。さるは大方の世につけて、心にくゝよしある聞えありて、昔より名高く物し給へば野の宮の御うつろひの程にも、をかしう今めきたる事多くしなして殿上人どもの好ましきなどは朝夕の露分けありくをその頃の役になむするなど聞き給ひても大將の君はことわりぞかし。ゆゑは飽くまでつき給へる物を、もし世の中にあきはてゝくだり給ひなばさうざうしくもあるべきかなとさすがにおぼされけり。
御法事など過ぎぬれどしやうにちまで猶籠りおはす。ならはぬ御つれづれを心苦しがり給ひて三位の中將は常に參り給ひつゝ世の中の御物語などまめやかなるをも又例の亂りがはしき事をも聞え給ひつゝ慰め聞え給ふに、かの內侍ぞうち笑ひたまふくさはひにはなるめる。大將の君は「あないとほしや。おばおとゞの上ないたうかろめ給ひそ」と諫め給ふものから常にをかしとおぼしたり。かの十六夜のさやかなりし秋の事など、さらぬもさまざまのすきごとゞもをかたみに隈なく言ひ顯し給ふ。はてはては哀なる世をいひいひてうち泣きなどもし給ひけり。時雨うちして物哀なる暮つかた中將の君にび色の直衣指貫薄らかに衣がへしてをゝしくあざやかに心耻しきさまして參り給へり。君は西の妻戶の高欄に押しかゝりて霜枯の前栽見給ふ程なりけり。風荒らかに吹き時雨さとしたる程、淚も爭ふこゝちして「雨となり雲とやなりにけむ、今は知らず」とうちひとりごちてつら杖つき給へる御さま女にては見捨てなくならむ