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Page:Kokubun taikan 01.pdf/168

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はず、心苦しきさまの御心地に惱み給ひて物心ぼそげにおぼいたり。珍しう哀と思ひ聞え給ひて、嬉しきものから誰も誰もゆゝしうおぼしてさまざまの御つゝしみせさせ奉り給ふ。かやうなる程はいとゞ御心の暇なくて、おぼし怠るとはなけれどとだえ多かるべし。その頃齋院もおり居給ひてきさい腹の女三の宮居給ひぬ。帝きさきいとことに思ひ聞え給へる宮なればすぢことになり給ふをいと苦しうおぼしたれど、こと宮たちのさるべきおはせず、儀式など常のかんわざなれどいかめしうのゝしる。祭のほど限ある公事にそふこと多く、見所こよなし。人がらと見えたり。ごけいの日、上達部など數定まりて仕うまつり給ふわざなれど、おぼえことにかたちあるかぎりしたがさねの色うへの袴の紋馬鞍まで皆整へたり。とりわきたる宣旨にて大將の君も仕うまつり給ふ。かねてより物見車心づかひしけり。一條の大路所なくむくつけきまで騷ぎたり。所々の御さじき心々にしつくしたるしつらひ人の袖口さへいみじき見ものなり。大とのには、かやうの御ありきもをさをさし給はぬに御心地さへなやましければおぼしかけざりけるを、若き人々「いでや己がどち引き忍びて見侍らむこそはえなかるべけれ。おほよそ人だに今日の物見には、大將殿をこそはあやしき山がつさへ見奉らむとすれば、遠き國々よりめこを引き具しつゝ參うで來なる御覽ぜぬはいとあまりも侍るかな」といふを大宮聞しめして、「御心地もよろしきひまなり。さぶらふ人々もさうざうしげなめり」とて俄にめぐらし仰せ給うて見給ふ。日たけ行きてけしきもわざとならぬさまにて出で給へり。ひまも無う立ち渡りたるによそほしう引き續きて立ち煩ふ。よき女房車多