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と例のやすからず世の人も聞えけり。參り給ふ夜の御供に宰相の君も仕うまつりたまふ。同じきさきと聞ゆる中にもきさいばらの皇子玉のひかりかがやきてたぐひなき御おぼえにさへ物し給へば、人もいと殊に思ひかしづき聞えたり。ましてわりなき御心にはみこしのうちも思ひやられていとゞ及びなき心地し給ふにそゞろはしきまでなむ。
「盡きもせぬ心のやみにくるゝかな雲井に人を見るにつけても」とのみひとりごたれつゝものいとあはれなり。皇子はおよすげ給ふ月日に從ひていと見奉り分き難げなるを、宮いと苦しとおぼせど思ひよる人なきなめりかし。げにいかさまに作りかへてかは劣らぬ御有樣は世に出でものし給はまし。月日のひかりの空にかよひたるやうにぞ世の人もおもへる。
花宴
きさらぎの廿日あまり南殿の櫻の宴せさせ給ふ。きさき春宮の御局左右にして參う上り給ふ。弘徽殿の女御、中宮のかくておはするを折節ごとに安からずおぼせど、物見にはえ過ぐし給はで參り給ふ。日いと能く晴れて空の氣色鳥の聲も心地よげなるにみこたち上達部よりはじめてその道のは皆探韵給はりてふみつくり給ふ。宰相の中將春といふ文字給はれりとのたまふ聲さへ例の人に異なり。次に頭中將、人のめうつしもたゞならず覺ゆべかめれと