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Page:Kokubun taikan 01.pdf/157

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 「かくれなきののとしるしる夏ごろもきたるをうすき心とぞ見る」といひかはしてうらやみなきしどけなき姿に引きなされて皆出で給ひぬ。君はいと口惜しく見つけられぬる事と思ひふし給へり。內侍はあさましうおぼえければ、落ちとまれる御指貫帶などつとめて奉れり。

 「恨みてもいふかひぞなきたちかさね引きてかへりし波のなごりに。そこもあらはに 」とあり。おもなのさまやと見給ふもにくけれど、わりなしと思へりしもさすがにて、

 「あらだちし波にこゝろはさわがねどよせけむ磯をいかゞ恨みぬ」とのみなむありける。帶は中將のなりけり。我が御なほしよりは色深しと見給ふにはた袖もなかりけり。怪しの事どもや、おり立ちて亂るゝ人はむべをこがましき事も多からむといとゞ御心をさめられ給ふ。中將、とのゐどころより「これまづとぢつけさせ給へ」とて押し包みておこせたるを、いかで取りつらむと心やまし。この帶をえざらましかばとおぼす。その色の紙に包みて、

 「中たえばかごとやおふとあやふさにはなだの帶はとりてだに見ず」とて遣り給ふ。立ちかへり、

 「君にかく引きとられぬる帶なればかくて絕えぬるなかとかこたむ。えのがれ給はじ」とあり。日たけておのおの殿上に參り給へり。いと靜に物遠きさましておはするに、頭の君もいとをかしけれどおほやけごとおほく奏し下す日にていとうるはしくすこよかなるを見るもかたみにほゝゑまる。人まにさしよりて「物がくしは懲りぬらむかし」とていと妬げなる