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Page:Kokubun taikan 01.pdf/155

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に聞ゆ。「うりつくりになりやしなまし」と聲はいとをかしうて謠ふぞ少し心づきなき。鄂州にありけむ昔の人もかくやをかしかりけむと耳とまりて聞き給ふ。彈き止みていといたく思ひ亂れたるけはひなり。君「あづまや」を忍びやかに謠ひて寄り居給へるに「おしひらいてきませ」とうちそへたるも例に違ひたる心地ぞする。

 「立ちぬるゝ人しもあらじあづまやにうたてもかゝる雨ぞゝぎかな」とうち歎くを我一人しも聞きおふまじけれどうとましや、何事をかくまではとおぼゆ。

 「人づまはあなわづらはしあづまやのまやのあまりも馴れじとぞ思ふ」とうちすぎなまほしけれど、あまりはしたなくやと思ひかへして人に隨へば、少しはやりかなるたはぶれごとなど言ひかはして、これも珍しき心地ぞし給ふ。頭中將はこの君のいたくまめだち過ぐして常にもどき給ふがねたきを、つれなくてうちうちに忍び給ふ方々多かめるをいかで見顯さむとのみ思ひわたるに、これを見つけたる心地いとうれし。かゝる折に少しおどし聞えて御心惑はして、「こりぬや」と言はむと思ひてたゆめ聞ゆ。風冷やかにうち吹きてやゝ更け行く程に、少しまどろむにやと見ゆる氣色なればやをら入りけるに、君は解けてしも寢給はぬこゝろなればふと聞きつけて、この中將とは思ひよらず、なほ忘れ難くすなるすりのかみにこそあらめとおぼすに、おとなおとなしき人にかく似げなきふるまひをして見つけられむことは耻しければ、「あなわづらはし出でなむよ。くものふるまひはしるかりつらむものを心憂くすかし給ひけるよ」とて直衣ばかりを取りて屛風の後に入り給ひぬ。中將をかしきを