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Page:Kokubun taikan 01.pdf/13

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ぐさに、羽根をならべ枝を交さむと契らせ給ひしに、かなはざりける命のほどぞ盡せずうらめしき。風の音蟲のねにつけてものゝみ悲しうおぼさるゝに、弘徽殿には久しううへの御局にも參う上り給はず、月のおもしろきに、夜更くるまで遊をぞし給ふなる。いとすさまじうものしと聞しめす。この頃の御氣色を見奉る上人女房などは、傍痛しと聞きけり。いと押し立ちかどかどしき所物し給ふおほん方にて、ことにもあらずおぼし消ちてもてなし給ふなるべし。月も入りぬ。

 「雲の上も淚にくるゝ秋の月いかですむらむ淺茅生の宿」。おぼしやりつゝ燈火を挑け盡して起き坐します。右近のつかさのとのゐまうじの聲聞ゆるは丑になりぬるなるべし。人目をおぼしてよるのおとゞに入らせ給ひても、まどろませ給ふ事かたし。あしたに起きさせ給ふとても、明くるも知らでとおぼし出づるにも猶朝まつりごとは怠らせ給ひぬべかめり。物なども聞しめさず、あさかれひのけしきばかり觸れさせ給ひて大床子のおものなどはいと遙に覺しめしたれば、陪膳にさぶらふかぎりは心苦しき御氣色を見奉り嘆く。すべて近くさぶらふかぎりは男女「いとわりなきわざかな」と言ひ合せつゝ歎く。「さるべき契こそはおはしましけめ。そこらの人のそしりうらみをも憚らせ給はずこのおほん事にふれたることをばだうりをも失はせ給ひ今はたかく世の中の事をもおぼしすてたるやうになり行くはいとたいだいしき業なり」とひとのみかどの例まで引き出でつゝさゞめき歎きけり。

月日經て若宮參り給ひぬ。いとゞこの世のものならず淸らにおよすげ給へれば、いとゞゆゝしうおぼした