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廂ひきつくろひて入れ奉る。「いとむつかしげに侍れどかしこまりをだにとてなむ。ゆくりなう物深きおまし所になむ」と聞ゆ。げにかゝる所は例に違ひておぼさる。「常に思ひ給へ立ちながら、かひなきさまにのみもてなさせ給ふにつゝまれ侍りてなむ。惱ませ給ふことをもかくともうけ給はらざりけるおぼつかなさ」など聞え給ふ。「みだり心ちはいつともなくのみ侍る。限のさまになり侍りていとかたじけなく立ち寄らせ給へるに、みづから聞えさせぬ事、のたまはする事のすぢ、たまさかに覺しめしかはらぬやう侍らば、かくわりなき齡過ぎに侍りて必ずかずまへさせ給へ。いみじく心細げに見給へおくなむ願ひ侍る道のほだし思ひ給へられぬべき」など聞え給へり。いと近ければ心細げなる御聲絕え絕え聞えて「いと忝きわざにも待るかな。この君だにかしこまりも聞え給ひつべき程ならましかば」との給ふ。あはれに聞き給ひて、「何か淺く思ひ給へむことゆゑかうすきずきしきさまを見え奉らむ。いかなる契にか、見奉りそめしより哀に思ひ聞ゆるもあやしきまで、この世の事には覺え侍らぬ」などの給ひて、「かひなき心地のみし侍るを、かのいはけなうものし給ふ御一聲いかでか」との給へば、「いでやよろづおもほし知らぬさまにおほとのごもり入りて」など聞ゆる折しも、あなたよりくる音して「うへこそ、この寺にありし源氏の君こそおはしたなれ。など見給はぬ」とのたまふを、人々いとかたはらいたしと思ひて「あなかま」ときこゆ。「いさ見しかば心地のあしさ慰めきとの給ひしかばぞかし」と、かしこきこと聞き得たりとおぼしての給ふ。いとをかしと聞きたまへど、人々の苦しと思ひたれば、聞かぬやうにてまめやか