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Page:Kokubun taikan 01.pdf/104

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むかばかり聞ゆるにても、おしなべたらぬ志の程を御覽じしらばいかに嬉しう」などあり。なかにちひさく引き結びて、

 「面かげは身をもはなれず山櫻心のかぎりとめてこしかど。よのまの風も後めたくなむ」とあり。御手などはさるものにて、唯はかなうおし包み給へるさまも、さだすぎたる御めどもには目もあやにこのましう見ゆ。あなかたはらいたや、いかゞ聞えむとおぼしわづらふ。「ゆくての御事はなほざりにも思ひ給へなされしを、ふりはへさせ給へるに聞えさせむかたなくなむ。まだなにはづをだにはかばかしう續け侍らざめればかひなくなむ。さても

  あらしふく尾上の櫻散らぬまを心とめけるほどのはかなさ。いとゞうしろめたう」とあり。僧都の御かへりも同じさまなれば口惜しくて、二三日ありて惟光をぞ奉れ給ふ。「少納言のめのとといふ人あべし。尋ねて委しく語らへ」などのたまひしらす。さもかゝらぬ隈なき御心かな。さばかり、いはけなげなりしけはひをまほならねども見し程を思ひやるもをかし。わざとかう御文あるを僧都もかしこまり聞え給ふ。少納言にせうそこしてあひたり。委しくおもほしのたまふさま大方の御有樣など語る。詞多かる人にてつきづきしう言ひ續くれど、いとわりなき御ほどをいかにおぼすにかとゆゝしうなむ誰も誰もおぼしける。御文にもいと懇に書い給ひて、「かの御はなちがきなむ猶見給へまほしき」とて、例の中なるには、

 「あさか山あさくも人をおもはぬになど山の井のかけはなるらむ」。御かへし。

 「汲みそめてくやしと聞きし山の井の淺きながらやかげを見すべき」。惟光も同じ事をき