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第二話 瑠璃王の瑠璃玉
一
「ウィスキー・ソーダ二杯!」
「日本酒一本」
「マカロニ・オウ・グラタンを頼むよ」
「俺はエビフライだ」
午後十時――初夏の空のドンヨリと曇つた夜の――カフエ・オーリアンはその二十に余る卓子と十に近いコンパートメントに、一つの空席さえ見出されない混雑だつた。
註文󠄁を怒鳴る客、註文󠄁の出来上つたのを知らせる為に、女給を呼ぶ帳場の一種異様な叫声、放談哄笑する声、それらの喧騷に輪をかける為に、自動ピアノの叱り飛ばすような響、濛々と立籠た煙草の煙、その間を三十幾人の白いエプロンを艶めかしくかけた女給が、或いは註文󠄁