を見せてくれませんか」
「あれは駄目です」若者は首を振った。「見せられません」
「見せられない、どうして?」
「あれは売物じゃないのです」
「売物じゃない」繁造は呆れたように繰返したが、「売物でなくてもちょっと位見せてくれても好いだろう」
「ところがいけないのです、誰にでも手を触れる事はお断りしてあるのです」
「不思議な話だ!」老実業家は腹立しそうに叫んだが、「じゃ一体どうした品なんだね」
「
「それをまた何のためにあそこへ出しておくのだね」
「主人の
「では、とにかく、あれは売らないのだね」
「ええ、売りません」
「いくら出しても」
「ええ、いくらお出しになりましても売りません」
老実業家はプンプンして店を出た。骨董店が飾窓へ品物を飾っておきながら、売らないという法があるものか。それにあの店員の無愛想極まる態度は何だと、繁造はひどく腹を立てていたが、そこは金をあり余るほど持っている
物事が思うようにならないと、いらいらするのが人の常だが、
四五日経って、繁造老人は自分の力だけではあの水晶の玉が容易に手に這入らぬと見切をつけたのと、水晶の玉にばかり掛ってられぬ用事が出来たので、彼は総領の繁太郎を呼んで碁盤の足の事から話出して、是非その玉を買取るように
「宜しい。きっとその玉を手に入れてみましょう。で、お父さんいくらまで出すんです」
「千両まで出す、もし買えたら骨折料として貴様に百両やるよ」
「一週間暇を下さい」
繁太郎は抜目なく云った。彼は二三年前に大学を出て、父の経営している会社に、重役秘書という名で、勤めているのだった。
「一週間は長過ぎるなあ」繁造は暫く考えていたが、水晶の玉がよくよく欲しかったと見えて、「宜しい、休暇をやろう。その代りきっと手に入れるのだぞ」
三
繁太郎は早速碁盤を調べてみた。しかし、父が既に調ベた以外に格別新しい発見をする事は出来なかったので、碁盤を買入れた店に電話で
日中はあまりに暑いので、日のずっと傾いた
繁太郎も無論店へ這入る積りだったが、先を越された形で、それにその店がひどく狭くって、二人の客を入れるには窮屈だったし〔ママ〕するので、その女客が出てからにしようと思って、入口の所に立って中の様子を見ながら待っていた。
「
中にいた番頭は父の時の番頭と同じ者らしかったが、この番頭は一日中新聞を読んでいるものと見えて、この時も
「今日は」と答えて、振向いたが、思いがけなく若い美しい娘が立っていたので少し狼狽したようだった。娘は繁太郎の見る所ではどこかの女事務員という