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じっと待っていなければならないのだ。

 私と渡辺とは例の玄関の傍の小さい部屋に這入って僅かばかりの火の這入った火鉢に、手をかざしながら、寒さにふるえていた。

「金子はどうしたんだろう」渡辺がふと思い出したようにいった。金子は先刻からどこへ行ったのか、ずっと姿を現わさないのだ。

「客間の方にいるんだろう。あそこは暖炉があって暖かいから――」私はいった。

「いくら暖かくても、屍体のある上に、警官が多勢いるからね」

「金子は弁護士の職業柄、刑事事件に度々携わっているからね。屍体なんかも案外平気だし、それに警官なんていって見りゃ仲間見たいなもので、僕達と違って気持が楽なんだよ」

「ひどい目に会わして済まなかったなアママ

「なに、まんざら僕の仕事に関係のない事もないから、かえっていい経験になるよ」

「そういってくれればいいが、何しろ迷惑をかけたよ」

「迷惑といえば君だって同じ事じゃないか。時に」私は話題を変えようと思って、「犯人の心当りはどうだ。君の得意の科学的頭脳で解決出来んかね」

「物奪りではね」渡辺はいつになく沈んだ調子でいった。「これが恨みの犯行だとか、復簪だとかいうのなら、又推理のしようもあるが、流しの物奪りじゃ、摑み所がないさ。いずれ、警察が浮浪人ルンペン狩でもして、犯人を見つけてくれるよ」

 そういっている所へ、金子がひょっこり這入って来た。金子の顔には一種異様な表情が浮んでいた。私はすぐにハハア何かあったなと思った。

 金子はいていた椅子に腰を下したが、すぐ話しかけようとしないで、煙草入から煙草を一本つまみ出して火をつけた。

「何か手係りがあったかい」私は辛抱がしきれなくてとうとう口を切った。

「うん」金子はチラリと渡辺を見ながら、重々しくうなずいた。

「どういう事だい」

「手係りというのは、つまり渡辺君の発見した事なんだが――」

 渡辺はチラリと金子を見たが、すぐ傍に眼をやった。

「え、渡辺君が発見した?」

「うん、そら、窓の開いていた事さ。それからみな子さんが小さい枯枝を拾った事――」

「そ、それがどうしたというんだ」私は思わず、膝を乗り出した。

「あの窓の開け放しになっていた部屋というのが、兇行のあった部屋なんだよ」

「じゃ、窓から這入ったんだね、犯人は」

 私は勢い込んで訊いたが、金子はそれには答えないで、

「君はあの部屋がひどく暖かかったのを覚えているかい」

「うん」といったが、すぐ気がついて、「なるほど、変だね、窓の開け放しになった部屋があんなに暖かかったとは」

「つまり急いで暖炉をきつけたんだよ」

「急いで? 誰が?」

「石炭や薪ではそう急に燃えつかんだろう。だから、燃え易い、枯れた上によく乾いた小枝をウンと