「決して噓は申しません。全く女のために――」
「見かけによらない
手塚はいきなり米田の腕を取って
「強情な奴だ。よし云わないなら云わないでよし。俺にも考えがある」
手塚は物凄く云い放ったが、松坂の方を向いて、
「この男の室はどこですか。案内して下さい」
「庭の隅の小屋の中です」
松坂はもう逆らわなかった。彼は得体の知れない手塚と云う男の怪腕にすっかり征服されてしまったのだった。手塚は片腕でしっかり米田を引摑みながら、松坂と八巻の後に従った。
例の物凄い鋭い眼で、米田の室をグルリと見廻した手塚は、米田を捕えていた手を放すと、
「あっ」
と云う叫声はガタガタ顫えていた米田の口から洩れたのだったが、それと同時に床板を揚げた手塚は床下から、
「あっ、それは」
今度は松坂が叫んだ。その小さな木切は紛󠄁れもない、ニウルンベルクの名画の額縁の一部分だった。
「紛失した画の縁の切端と見えますな」手塚は松坂の方を見てニヤリと笑ったが、「御覧なさい。今度の事件を解く鍵はこの切端に相違ありませんて」
そう云いながら、彼は
「あっ」
一同の口から、期せずして驚きの声が出たが、中にも米田はあわてて逃げ出そうとして、忽ち手塚に引据えられた。
「このダイヤモンドはどうしたのだ」
手塚は叱るように訊いたが、米田はただうなだれただけで、答えようとしない。
「答えられないか。よし、では俺が代って云ってやろう。貴様は先晩ニウルンベルクの名画が紛失した時、翌朝早く庭の隅でメチャメチャに壊わ〔ママ〕された額縁を見つけたが、ふとその中に光っているダイヤモンドを見出して欲しくなり、宝石の這入っていた部分の縁だけをこうして床の下に隠し、残りは焼いてしまったのだろう」
「――」
「それから今晩はかねて粕谷が税関から画を取出すのを知って、その額の中にも宝石が隠されていると見込をつけて、粕谷の室に忍び込み、あべこべにあんな目に遭わされたのだろう」
「そ、その通りでございます」
超人的な明察に驚いたか、米田はさっと恐怖の表情を浮べながら、平蜘蛛のように恐れ入った。
「はてな」恐縮している米田を尻目にかけて、手塚はダイヤモンドをためつすがめつ見入っていたが、
「このダイヤモンドの切り方は余程古い。数世紀以前のものだ。