Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/20

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だ。そうして、彼が捕つて警察で調べられている間に、そつと家に行つて人形を盗んで来た。真珠の頸飾りの在所も分つてはいたが、誰があんなものを盗るものか。真赤な偽物じやないか。柏木だつて盗ませる気はなかつたのだ。只盗人をー人忍び込まして置いて、後でそいつがすり替えたと云う事にする積りだつたのさ。人形を手に入れてから、一生懸命にひねくり廻して、柏木や、菅原夫人があれほどに執着して欲しがつた理由を考えて見たよ。で、結局さつき菅原の所で云つたような結論に達したのさ。菅原も度胸のない奴だ。俺がポンと人形を卓子の上に出した時に、さつと顔色を変えさえしなければ、俺の推理はあゝスラスラと出なかつたのだ。奴は自分で白状したようなものだ」

 ギロリと眼を動かして、グロテスクな大きな顔に得意の色を浮べながら、説き立てゝいた手は、何と思つたか、この時に彼の容貌よりはもう一層怪異な例の人形を取り出して、暫らママく眺めていたが、両手で入形の頭と足を押えると、勢よく机の角に中程をぶつつけた。人形の首はポキリと取れた。

「あつ」蓑島は驚いて叫んだ。

「どうだい」手は然し平気で取れた首の空胴を示した。首の中ではピカリと美事な大粒のダイヤモンドが光つていた。

 彼は無雑作に首の中に指を突込んで、ゴソしていたが、やがてポロリと二つの宝石が机の上に落ちた。

「所でだ、君、この胴体の中を覗いて見給え」彼は首の取れた胴を簑島に渡しながら、

「多分焼けて炭化したポママの紙切が這入つているだろう。何しろ、この人形は例の亀津が恐ろしさの余り、瓦斯焜炉の中へ投げ込んだのだからね。人形はクロームで出来ているから、容易に熔けやしない。だけどもね腹の中に這入つているのは紙だから耐らない、焦げて終うさ。ね、そうだろう」

 簑島は驚いて胴を振つて見た。中からは手の云つた通り、黒焦げになったポロの紙片が出て来た。

「じや、あの、菅原は――」

 簑島はいろの感情が込み上げて来て、鳥度口が利けなかつた。

「アハヽヽヽ、アハヽヽヽ」小柄な悪魔は喉仏まで見えるように大きな口を開いて腹を抱えて笑い出した。地獄の笑いとはこんなものであろうと、簑島にはそれが呪いの声であるかのよう