Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/19

提供:Wikisource
このページは校正済みです

 菅原代議士は地団太を踏んで口惜しがつたが、結局弱味のあるものは致し方がない。彼は渋々十万円の小切手を書かざるを得なかつたのだつた。

「之が現金になるまでに変な事をすると、人形の腹がものを云うぞ」

 こう云う捨台詞を残して、苦り切つている菅原を尻目にかけながら、手は悠々と引き上げて行くのだつた。蓑島は無論茫然としながら彼の後に従つた。



「どうだい、世の中には面白い金儲けの方法があるだろう」

 手は彼の居間の大きな肱突椅子にチョコナンと坐りながら、大きな鼻をうごめかした。

「ですが、一体あなたはどうして今度の事件を解決したのですか」簑島は恐る訊いた。

「柏木の斃れている所に行つたのは偶然さ。そこで、君から彼が死ぬ間際に『眼の動く人形』と云つた事を聞いて、之はてつきり宝石商の柏木か、代議士の菅原に関係のある事と睨んだのさ。と云うのは一年ばかり前に柏木の所で菅原夫人が矢張り『眼の動く人形』と云つて斃れた事があつたからね。そこで死体を探つて見ると、名刺入があつて、即ち柏木自身だと云う事が判つた。で、何か旨い汁を吸う迄は警察に騒がれたくないと思つて、名刺入れも指紋のついた短銃も失敬したのだ。

 所で柏木の所へ行つて、金庫の帳簿を調べて見ると、彼の得意先に売つたものゝうちで変な印がついているものがある。ふと思いついたのはこの柏木と云う奴が、いかさま師で、偽物を方々に売りつけたのではないかと云う事だ。だん調べて見ると、白石新一郎に売つた真珠の頸飾りにも変な印がついている。彼の斃れていたのが白石の家の前だし、白石と云うのは有名な実業家で、近々自宅で夜会を開くと云う噂さママを聞いている。で、つまり、柏木が白石に偽物を売つたが、それが暴露しそうで困つた。で、誰かを唆かして盗みに這入らした。所が偶然に白石の所に例の人形があつて、それを盗んで来たので、格闘になつて射殺されたのではないか。と云う推論が生れて来たのさ。とすると、柏木を殺した奴は窃盗の前科者で彼に頸飾りを盗むべく頼まれた奴に相違ない。人形はいずれ転々して、白石の手に這入つたのだろう。彼もホンの物好きで買つて、やがて忘れて終つたと見える。現に盗人の這入つた形跡がありながら、人形の紛失には一向気がつかなかつたので判る。

 で、この上は人形を探すだけだ。それには犯人を捕えるに限る。で、例の密告状を書いたの