Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/15

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出されるのですから、止むなく云いなりになる事にしました。で、その翌々晩でした。私は白石家の勝手をよく柏木から聞いていたので、首尾よく見咎められないで忍び込む事が出来ました。で、何か忍び込む形跡を残して置けと云う事でしたから、応接室の隅の棚に燻つていた人形を一つ、何気なくヒョイと懐中に入れて、そのまゝ帰ろうと思いましたが、余り旨く行つたものですから、つい慾が出ました。何しろ窃盗を商売にしているのですから、あれ位の大きな家に易々と這入りながら、金目のものを何も取らずに出るなんて、馬鹿々々しいと云う気がしたのです。それで約束とは違いましたけれども、金庫の中の真珠の頸飾りを一つ頂戴しました。

 それだけの仕事をして、十一時頃でしたか、外へ出ると、監視の意味だつたのか、思いがけなく柏木が門の傍に立つていたのに会いました。

「旨くやつたかい」と聞きますので、

「へい、旨く行きました。這入つた証拠にこんなものを貰つて来ましたよ」とそう云つて、頸飾りの方は無論隠して、例の人形をヒョイと彼の前に差出したのです。

 そうすると、彼の顔色がさつと変りました。私は全く以つてあゝ瞬間に人の相が変るものだと云う事は知りませんでした。実に物凄い形相でした。そうして一言も口を利かないで、突然私に飛かママかろうとしました。私は不意だつたので驚きましたが、はゝあ、この人形は何か大切なものだなと気がつきましたので、

「旦那何をなさるのです」と云いますと、

「その人形を寄越せ」と喘ぐように云つたかと思うと、忽ち短銃を取り出そうとしたのです。

 私は思わず嚇としました。前々晩短銃ではひどい目に遭つています。そうして私にこんな詰らない事をさせて置きながら、偶然私の盗んだ人形を奪う為に、又󠄂々短銃で脅かそうとするのですから、私も非常に立腹しました。で、逆に柏木に飛つママいて、短銃を奪つて、一発の許に彼を射ち殺しました。そうして一目散に逃げ出しました。

 所で、みなさん、お聞き下さい。私は呪われたのです。全くアノ人形の為に呪われました。

 隠家へ帰つて、先ず頸飾りをいつもの場所に納めて、さて、つく盗んで来た人形を見ますと、実にぞつとするような奇怪な姿をしているのです。

 高々七八寸の背で、黒ずんだ灰色の気味の悪い膚をしている金属製の裸人形ですが、その顔