Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/13

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 一体宝石商の柏木氏と菅原代議士との間にはどういう関係があるのか。犯人が白石邸に忍び込んだと云う事が、どうして手に推察出来たのか。犯人が強窃盗の前科者だとはどうして分つたのか。又󠄂「眼の動く人形」と云う言葉は何を意味するのか。何もかも分つたような顔をしている手は何者か。蓑島は恐ろしくてならなかつた。彼は早々に彼に許しを乞うて自動車に送られて帰宅した。もう二時に近かつた。

 床の中で昨夜の奇怪な出来事を一通り思い浮べた蓑島は、今のように不安に顫えながら枕許の新聞を取り上げて、いつも一面の広告から悠り読むのを、もどかしいと許りに社会面を開けた。と、大きな活字で、

   Pケ岡の怪死体

 と云う見出しが眼についた。

 大急ぎで読んで見ると、今暁Pケ岡の白石氏邸前に短銃で胸を射抜かれた紳士風の男の死体が発見せられた。所持品を調べて見たが名刺その他手掛りになるようなものがないので、いずくの者とも判明しない。尚本事件と関係があるかどうか分らぬが、同夜,白石邸には窃盗が忍入つた形跡があつた。然し何一つ紛失したものがないので、同邸でも不思議に思つている。同邸内の門番小屋にいた某は十一時頃銃声らしいものを聞いたと云つている云々と書かれていた。

 蓑島はそつと顔を上げた。そうして庭越しに遥か向うに聳えているPケ岡を見上げて、ホッと溜息をついた。

 彼は漸くの事で起上つたが、新聞記事に気がついたかつかぬか、兎に角、妻は何となく異様な眼を光らして自分を見ているように思えて仕方がなかつた。然し、彼は彼女に昨夜の奇々怪々な事件を説明するだけの勇気もなかつた。

 其の日の夕刊には又󠄂々蓑島の心を痛めるような記事が出ていた。

 それはPケ岡の死体は有名な宝石商の柏木金之助だつた事、解剖の結果銃殺せられたものに相違ない事、意外な方面から密告があつて、犯人はやがて捕まるだろうと云う事、それから白石方では盗難品は少しもないと云う事だつたが、取調べの結果同家主人が柏木から買入れた時価四万円と云う真珠の頸飾が紛失していた事が判明した。右の窃盗犯人は頸飾を盗み出して、同家を出ようとする時に、偶々来合せた柏木が、彼を見咎めたので、兇行に及んだのかも知れないと云う事などが仰々しく掲載されていた。が、最も蓑島の心を痛めたものは僅々数行であ