Page:KōgaSabrō-The Crime in Green-Kokusho-1994.djvu/3

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緑色の犯罪


 白樺の林、小松の林はいつかまばらな名もない雑木の林に変って、一面の草原となり、所々のくさむらには萩の花がホロロと散り、ききようなでしこの花が咲き乱れ、その間を爪先上りの小路はどこまでも続き、行手のにやまあいは濃い霧が立ち籠めていました。雪解の水なのでしょうが、昨日の雨に勢を増して、浅瀬ながらにも音もなくとうとうと流れて、幾度か歩いて行く小路を横切りましたが、それには朽ちかかった板にしても、とにかく人の渡れるように架けてあるのが、心細くもいつか人が歩いた道である事を示していました。昔の私なら画趣があると云って、スケッチブツクを開いたでしょう。今の私はそれどころではありません。

 親切なFホテルの人達にきづかわしげに見送られて、その玄関を出てからもう五時間近く歩いているでしょう。Fホテルのある所が既に三千余尺の富士見高原の中心地ですから、それからなだらかな勾配ながらも、上り一方でしたから、今はもう五千尺近い所に登ったでしょう。八月の初めと云うのに、この辺りはすっかり秋景色でした。