Page:Iki-no-Kozo.djvu/56

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出て他へ行くものは華美を好み、花やかに飾るのである。自己のうちへ沈むものは飾りを示すべき相手をもたないから、飾らないのである。豐太閤は、自己を朝鮮にまでも主張する性情に基いて、桃山時代の豪華燦爛たる文化を致した。家康は『上を見な』『身の程を知れ』の「五字七字」を祕傳とまで考へたから、家臣の美服を戒め鹵簿の儉素を命じた。そこに趣味の相違が現はれてゐる。卽ち、派手、地味の對立はそれ自身に於ては何等價値判斷を含んでゐない非價値的のものである。對立の意味は積極的と消極的との差別に存してゐる。

 「いき」との關係を云へば、派手は「いき」と同じに他に對して積極的に媚態を示し得る可能性をもつてゐる。『派手な浮名が嬉