Page:Iki-no-Kozo.djvu/133

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の條件に最も適󠄃合したものは行燈であつた。機械文󠄃明は電燈に半󠄃透明の硝󠄃子を用ひるか、或ひは間接照明法として反射光線を利用するかによつてこの目的を達󠄃しようとする。いはゆる「靑い燈、赤い燈」は必ずしも「いき」の條件には適󠄃しない。「いき」な空󠄃間に漂ふ光は「たそや行燈」の淡い色たるを要󠄃する。さうして魂の底に沈んでほのかに「たが袖」の薰を嗅がせなければならぬ。

 要󠄃するに、建󠄄築上の「いき」は、一方に「いき」の質料因たる二元性を材料の相違󠄄と區劃の仕方に示し、他方にその形相因たる非現實的理想性を主として材料の色彩󠄃と採󠄃光照明の方法とに表はしてゐる。

 建󠄄築は凝結した音󠄃樂といはれてゐるが、音󠄃樂を溶解した建󠄄築