Page:Iki-no-Kozo.djvu/123

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うな色調でなければならぬ。黑味に適󠄃する色とは如何なる色かといふに、プールキンエの現象によつて夕暮に適󠄃合する色より外には考へられない。赤、橙、黃は網膜の暗󠄃順應に添はうとしない色である。黑味を帶びゆく心には失はれ行く色である。それに反して、綠、靑、菫は魂の薄󠄄明視󠄃に未だ殘つてゐる色である。それ故に、色調のみに就ていへば、赤、黃などいはゆる異化󠄃作用の色よりも、綠、靑など同化󠄃作用の色の方が「いき」であると云ひ得る。また、赤系統の溫色よりも、靑中心の冷色の方が「いき」であると云つても差支ない。從つて紺や藍は「いき」であることが出來る。紫のうちでは赤勝󠄃の京紫よりも、靑勝󠄃の江戶紫の方が「いき」と看做される。靑より綠の方へ接近󠄃した色は