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屢々碁盤縞よりも「いき」である。

 縞の或る部分󠄃をかすり取る場合に、かすり取られた部分󠄃が縞に對して比較󠄃的微󠄄小なるときは、縞筋にかすりを交󠄄へた形となり、比較󠄃的强大なるときは、いはゆる絣󠄃かすりを生ずる。この種の模樣が「いき」に對する關係は、抹殺󠄃を免󠄄れた縞の部分󠄃的存在が如何なる程󠄃度で平󠄃行線の無限的二元性を暗󠄃示し得るかに歸する。

 縞模樣のうちでも放射狀に一點に集中した縞は「いき」ではない。例へば轆轤に集中する傘の骨、要󠄃に向つて走る扇󠄃の骨、中心を有する蜘蛛の巢、光を四方へ射出する旭日などから暗󠄃示を得た縞模樣は「いき」の表現とはならない。「いき」を現はすには無關心性、無目的性が視󠄃覺上にあらはれてゐなければならぬ。