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ともなきに、無量恒沙の人を造り、地獄に墮し、一日一月の間のみか、不退永劫の苦に苦を受かさねさするを、大慈大悲のDsと云はんや。大慈大悲とは苦を拔き樂を與ふ、是を云ふぞ。

   三 段

提宇子の云く、Dsデウスはスヒリツアルスヽタンシヤとて、無色無形の實體にて、間に髮をいれず、天地いづくにも充滿して在ませども、別して威光を顯し、善人に樂を與へ玉はん爲に、ハライソとて、極樂世界を諸天の上に作り玉ふ。其始め人間よりも前に安女アンゼルスとて、無量無數の天人を作り、いまだ尊體を顯し玉はず。上一人の位を望むべからずとの天戒を定め玉ひ、此の天戒を守らば、其功德に依てDsデウスの尊體を拜し、不退の樂を極むべし。若又破戒せばインヘルノとて、衆苦充滿の地獄に墮し、毒寒毒熱の苦患を與ふべしとの義なりしに、造られ奉て、未だ一刻をも經ざるに、卽無量の安女の內にルシヘルと云へる安女、己が善に誇て、我は是Dsデウスなり、我を拜せよと勸しに、かの無量の安女の內、三分が一はルシヘルに同意し、多分は與せず。玆に於てDsデウス、ルシヘルを初とし、彼に與せし三分一の安女をば下界へ追下し、インヘルノに墮せしめ玉ふ。是卽安女高慢の科によりて、ヂヤボとて天狗と成たる者なり。

破して云、汝提宇子、此段を說こと偏に自業自縛なり。先Dsはいづくにも滿々て在ますと云は、眞