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Page:Hadaiusu(Kirishitan shiryō).pdf/15

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あるのみならず、諸善万行備り玉へば、讀誦觀念怠り玉はず。或時觀念の窓に向ひ心をすまし玉ふ。黃昏に及で忽然としてアンジヨ來現し、長跪合掌して、アベガラシヤベレナダウミヌステクンと申されしなり。此語の意は、Dsの愛相滿々玉ふマリヤに御礼をなし奉る。御主は御身と共に在ますと云義也。此時より懷妊し玉ひ、十月滿じて件のベレンに於て、夜半深更に及で厩の內にして御誕生あれば、天人天降り、音樂を奏し、異香四方に散滿す。此時奇瑞を以てDsの御出世を顯し玉ふ者也。此御出世の主をゼズキリシトと申し奉る。御在世三十三年にして、衆生に善道を敎へ玉ひ、御身Dsま〈一本マヲニニ作ル〉て在ますと宣ふが故に、ジユデヨと云者の一類、是を聞て魔法也と云ひ、權門に訴へ、呵責打擲を加へ、終にクルスとて、はたものに掛奉る。是以て人間の滅罪生善の功德、アダン、ヱワの科送として、三十三の御年入滅を唱へ玉ひ、三日目に蘇生し玉ひ、其後四十日を經、上天を遂げ玉ひたる者なり。夫より以來、大都千六百年に及べり。

破して云く、Dsデウスの出世、天地開闢より大數五千年に及ぶと云。是程其科送の遲かりしは、天地懸隔なる故に、遠路にして路次に年數を經たる歟。又旅の裝ひ用意に歲月を經たる歟。五千年の間に科送なければ、一切世界の人間、地獄に墮べきこと無量無數なるべし。若干の者地獄に墮るは、偏に雨の降が如くなるべきに、其を見ながら哀とも思はず、五千年已來、衆生濟度の方便に心を傾けざ