曰く、「否。是必主使する者︀あらん」と。窮詰すること再四。而れども吿げず。將
軍怒り、信綱を巨囊中に內れて、其口を緘し、之を柱に懸けて曰く、「汝、實を首
げずば出づるを許さず」と。信綱、囊中より之を爭ひてに徹す。昌、將軍出
でゝ朝を視︀る。夫人、信綱の志を憫み、其飢を慮り、囊口を胠き、餕を以て之を
啗はしめ、復其口を緘すること初の如くす。日中、將軍、入りて復之を詰る。終
に辭を改めず。夫人、固く請ひて之を縱す。將軍これを目送し、夫人に謂て曰く
「孺子、能く是の如し。後必我が兒の羽︀翼とならん」と。果して其言の如し。