を言ふ。正信來りて前將軍に啓す。前將軍喜びて曰く、「吾れ且遂に其夫と姑とを
免︀れしめん」と。正信、又將軍に啓す。將軍叱して曰く、「盍ぞ乃夫と倶に死せざ
る」と。秀賴糒倉中に在りて命を乞ふ秀賴、遂に糒倉の中に入り、益使を發して命を乞ふ。而して日已に暮
る。將軍、井伊直孝、及び安藤重信、石川正次等を遣し、精︀倉を守りて命を竣た
しむ。八日、前將軍、本多正純及び加加爪某を遣し、往きて之を驗し、且言はし
めて曰く、「事已に此に至る。復言ふ可きなし。太閤の舊好、吾れ竟に忘るゝ能は
ず。苟も母子皆出でんか、秀賴を高野に置き、淀君に給するに萬石を以てせん」
と。治長入りて吿ぐ。出で答へて曰く、「謹︀みて命の辱きを拜す。當に往きて之を
謝すべけれども、獨萬兵に目を注がる。願くは二與を得て往かん」と。直孝其詐
なるを疑ひ、乃答へしめて曰く、「軍中唯一與あるのみ。右府は、請ふ、騎せよ」
と。往復して决せず。直孝、重信に謂て曰く、「大旨仁恕と雖、禍︀を貽すの道な
り。是れ我が輩に在るのみ」と。乃銃を倉中に發すること二たび。秀賴以下、絕
つを知りて、秀賴等自殺︀す皆火を縱ちて自殺︀す。
前將軍、方に進みて櫻門に至り、以て秀賴の出づるを待つ。直孝等、來りて狀を來りて狀を
吿げて罪を請ふ。前將軍歸る前將軍、之を領く。卽日、午時、遂に駕を命じて、獨板倉重昌