をして先部を遏め、斾を轉じて左せしむ。了曰く、「茲の地は沮洳たり。請ふ、別
路に由らん」と。乃馳せて令を傳ふ。高刑、良勝顧ずして進む。矢尾堤に至りて
敵將盛親の堤下に伏するに遇ふ。二人、之に死す。盛親、愈進む。了等、力戰し
兵を收めて高阜に據り、馳せて高虎を促す。高虎、其二將を救はざりしを怒りて
肯ぜず。井伊直孝、道明寺に赴き、亦轉じて左し、木村重成木村重成と若江堤に戰ふ。其
將長阪某曰く、「先堤を得る者︀は勝たん」と。銃隊を督し、堤を奪ひて之に據る。
槍隊、進まんと欲す。老臣菴原某曰く、「亟に槍を用ゐる勿れ。亟に槍を用ゐば、
則敵近づきて勢竭きん」と。衆、冐して進む。利あらず、敵爭ひて之を蹙す。菴
原乃麾きて進む。山口重政、次子弘隆と、奮戰して創を被る。長子重信、深く入
りて二騎を斬り、進みて重成と鬪ひて死す。直孝の麾下繼ぎて進む。菴原、刺し
て重成戰死重成を殪す。安藤某、其首を取る。敵兵、みな潰ゆ。井伊氏の兵、北ぐるを追
ふこと里餘。其游兵、盛親の幟を見て、橫さまに之に迫る。渡部了も亦、赤隊の
來るを見るや、乃奮擊して盛親を走らせ、進みて平野橋を扼す。復人をして高虎
を促さしめ、道明寺の敗兵を邀へんと欲す。高虎曰く、「斯の奴、死處に死せず。
今何ぞ曉曉たること乃爾り。歸師を遏むる勿れ。宜しく速に兵を收むべし」と。