Page:Gunshoruiju27.djvu/206

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の文字にこもりて侍ると申給へるが。我領知を人にとられじとすると人の領知ををさへてとらんとするその道理はいづ方に有べきぞや。本より欲界の衆生なれば。欲なき人は有べからず。又まよひの凡夫なれば。理に迷はぬ事は有まじけれど。これぶんざいの道理はさすがにたれもしり侍べきを。あやまりをあらためむとおもひよれる事のなきこそ。つゐには我人の不運にては侍るなれ。昔晉の代に周處といふ人のありしが。力つよくしてなす事の人のためによきこと一もなかりしが。有時人にいふやう。今年は年もゆたかなれば。たれもたのしみこそすらめととひければ。三害といふものいまだのぞかざればたのしむ人有べからずとこたふ。周處その三がいは何々ぞといひければ。一には南山にひたいの白き虎のありて人をくらふと。二には長橋といふはしの下に。みづちといふものの出て。人をそこなふと。三にはなんぢがふるまひをいふとこたへければ。周處此よしを聞て。すなはちつるぎをぬきもちて南山へ入て虎をほろぼし。長橋の下におりくだりてみづちをころし。をのれは俄にがくもんをして。引替善人になれるためしあれば。きのふまではあやまれる事も。一念ひるがへせば。無量の罪たちまちにほろぶることなるべし。

一訴訟の奉行人其仁を選ばるべき事。

凡奉行人は天下の公事を執行ふ職たるによりて。政道の善惡もととして是によるべし。いかにも心正直にして私を不存。黑白をわきまへ。文筆に達し。理非にまかせて贔負をいたさゞらんをよき奉行とは稱すべし。是によりてあやまりあらん奉行人をばながくめしつかはるべからざるよし貞永の式目にの