Page:Gunshoruiju27.djvu/155

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若是をそむくべくば。此我朝の外に出て。天竺震旦にも可渡。伯夷叔齊は。天下の粟を食じとて。蕨を折て命をつぎしを。王命にそむける者。豈王土の蕨を食せんやとつめられて。其理必然たりしかば。わらびをも不食して餓死けり。理を知心を立たる類皆如此。されば公家より朝恩被召放。又命を奪給と云とも力なし。國に居ながら。惜そむき奉給べきにあらず。然を剩私に武威を振て。官軍をほろぼし王城を破り。あまさへ太上天皇後鳥羽順德を擒にし奉て。遠嶋にうつし奉り。皇子后宮を國々に流し。月卿雲客を所々に迷し。或は忽親類に別て殿閣にさけび。或は立所に財貨を奪はれて。路巷に哭する躰をきくに。先打見る所其理に背けり。若理に背ば。冥の照覽。天のとがめなからんや。大につゝしみ給べし。おぼろげの德を以て其災をつぐのふ事有べからず。是をつぐのふ事なくむば。禍のこん事不踵。なみの益を以て。此罪をけす事あるべからず。是をけす事なくば。豈地獄に入事如矢ならざらんや。御樣を見奉るに。是程の理にそむくべき事。し給べき事にはあらぬに。いかにと有けることにやと。拜謁の度には。且は不思議に。且は痛敷存と云々。泰時朝臣。こぼれおつる淚をさらぬ躰にをしのごひて。疊紙を取出し。はなかみなどしてをししづめて答申て云。此事所存の趣。日來委語申度存候つるを。さして次而なく候て。自然に罷過候き。故將軍賴朝大相國淸盛禪門の一類を滅し。龍顏を休奉り。万民の愁をたすけ。君の爲に志をつくし。忠の爲に私をわすれ。こき味をなめては。先君にそなへん事をいとなみ。珍敷財をまうけては。則君に獻ぜん事を專らにす。有時はいさめ。有時は隨ひ奉しかば。大將の門に有とし有もの。上一人