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もる雫のたもとにくはゝりけるをみて。
夜もすから蓬もりあかす春雨にうきねの袂なをしほるなり
見もはてぬうきねの夢の行末をさそひてかへる波の音かな
なみぢはるかに分過つゝ。いかゞ有けむ。此ほどのつかれにや。眉のうへおもくなり。心むすぼほれ。たゆたふ舟のうちもいぶせくうるさかりければ。すこしこゝろやすめむと。童ひとりぐしあたりの嶋にあがりて。こなたかなたみありきけれど。稀にも人のゆきかよひける跡さへなかりけり。波のをとのみすごう聞えて。いとゞ袖のうへもしほれがちなるに。むかしいかなるものゝわざにか有けむ。五丈ばかりありける石の面に。
なき人の手つから植し草木ゆへ庭もまかきもむつましき哉
とよみければ。みな人袖をなむぬらしける。其庭の內にをのづからいと大きなる石あり。こけむし物ふりたるうへにいとおもしろき松ひ